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東京地方裁判所 昭和29年(行)52号 判決

原告 日本コロイド工業株式会社

被告 芝税務署長

訴訟代理人 小林定人 外四名

主文

被告が原告に対し昭和二十七年六月三十日附通知書の交付をもつてなした原告の自昭和二十五年十月一日至昭和二十六年三月三十一日事業年度分法人税の所得金額百七万八千三百円法人税額三十七万七千四百円と各更正し加算税九万四千二百五十円を賦課する旨の課税処分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として

原告会社は被告から法人税法第二十五条により青色申告書をもつて確定申告をすることの承認を得たものであるが、原告会社の昭和二十五年十月一日から昭和二十六年三月三十一日に至る第七期事業年度の決算においては、利益金を生じたが多額の繰越欠損金があつた為め、法人税法第九条第五項の規定によりこれを損金として計算した結果、同年度においては課税所得がないことになつた。よつて原告会社は被告に対しその旨の確定申告を青色申告書によつて申告したところ、被告は昭和二十七年六月三十日附で原告会社の右事業年度分所得金額を百七万八千三百円に、法人税額を三十七万七千四百円に各更正し、かつ過少申告加算税九万四千二百五十円を課する旨の課税処分をなして原告会社に通知した。そこで原告は東京国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は昭和二十九年四月一日原告に対し右請求を棄却する旨の通知をなした。しかしながら、被告のなした前記処分は原告会社の所得の認定を誤つた違法であるから、その取消を求める為め本訴に及んだ。 と陳述し、被告主張事実中原告が第六期事業年度の青色申告書を提出しなかつたことは否認すると述べた。

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張事実中原告会社の第七期事業年度においては繰越欠損金の存した為め課税せらるべき所得が生じなかつたとの点及び被告が過少申告加算税を賦課したとの点は否認するが、その余の事実は認める。原告が過少申告加算税の決定と主張するのは法人税法第四十四条第二項第二号の規定による無申告加算税の賦課処分である、と述べ、右処分の適法であるゆえんを次のとおり主張した。

原告会社の本件事業年度における決算の結果は利益金二百八十一万六千九百九十五円であるところ、昭和二十五年四月一日施行された同年法律第七二号による改正後の法人税法第九条第五項の規定によれば、青色申告書を提出した法人の各事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度に生じた損金は、当該損金の生じた事業年度において青色申告書を提出し、かつ、その後において連続して青色申告書を提出している場合は、所得の計算上損金に算入することとなつたが、原告会社はその第六期(自昭和二十五年四月一日至同年九月三十日)事業年度において多額の欠損を生じたと称するけれども、同年度において青色申告書を提出していないから、本件事業年度の所得の計算上、右繰越欠損金を損金に算入することを得ない。そこで、被告は本件事業年度の所得の計算においては、昭和二十五年法律第七二号附則第十三項及び同法による改正前の法人税法第九条第四項の規定により、原告会社の第五期(自昭和二十四年十月一日至昭和二十五年三月三十一日)事業年度の繰越欠損金百七十三万八千六百二十六円のみを損金に算入し、本件事業年度の利益金から右欠損金を差し引いた百七万八千三百円を課税所得と算定し、本件所得金額並びに法人税額の更正及び加算税額の決定を行つたのであるから、右の課税処分にはなんらの違法原因も存しない。

〈立証 省略〉

理由

原告会社が確定申告を青色申告書によつて行うことの承認を得たものであること、その昭和二十五年十月一日から昭和二十六年三月三十一日に至る第七期事業年度の決算の結果、課税所得がない旨の確定申告を青色申告書によつて被告に対し申告したこと、被告はこれに対し所得金額を百七万八千三百円、法人税額を三十七万七干四百円に各更正し、かつ加算税(過少申告加算税であるか無申告加算税であるかは別として)九万四千二百五十円を課する旨の処分をなし、昭和二十七年六月三十日附でその旨を原告会社に通知したこと及び原告会社のなした審査請求に対し東京国税局長はこれを棄却して原告会社に昭和二十九年四月一日その旨通知をなしたことは、当事者間に争がない。

そこで本件課税処分の内容について検討する。

原告会社の第七期事業年度における決算の結果利益金二百八十一万六千九百九十五円を生じたこと及び原告会社の昭和二十四年十月一日から昭和二十五年三月三十一日に至る第五期事業年度においては百七十三万八千六百二十六円の繰越欠損金を生じ、その旨の確定申告書を被告に提出したことは、原告の明かに争わないところである。被告は、右の二事業年度の中間にあたる第六期事業年度について原告会社から青色申告書の提出がなされなかつた旨主張するので、以下この点につき判断する。

証人岡村芳子及び同深本三郎の各証言によれば、芝税務署の庁舎内には申告書類を受付ける窓口は総務課受付係に一箇所あるのみであつて、その受付箱に入れられた書類は法人税、間税、総務の各係の所管別に分類された上それぞれの係に送られること、法人税の申告に関する書類は法人税係に廻されてから東京国税局調査課所管の資本金二百万円以上又は所得金額三百万円以上の法人の分とそれ以外の法人の分とに分類され、各別に法人税申告書収受簿に記入されること、東京国税局調査課所管の申告書は四部宛提出され、相当かさばるものであること、及び昭和二十五年頃は申告書の提出者に対しその受領を証する方法を講じていなかつた事実を認めることができ、成立に争のない乙第一号証(昭和二十四、五年度調査課所管分法人税申告書収受簿)の記載によれば、原告会社の第五期事業年度分の申告書は昭和二十五年七月二十二日収受されて収受簿に記載されているが、第六期事業年度分の申告書の収受に関する記載は右収受簿には全く存しない事実を認定することができる。ところが証人越塚正造及び同川崎勝治の証言によれば、右川崎勝治は当時原告会社に勤務し経理会計の事務を担当していたが、昭和二十六年三月末日同人が原告会社を辞職するまで一回だけ青色申告書を提出したことがあること、それは第六期事業年度終了の日から二箇月間の申告期間の経過した頃、即ち昭和二十五年十二月頃に芝税務署に持参し、窓口の受付箱に入れて提出したこと、及び同人は右申告書の作成に当つて原告会社の顧問をしていた税理士越塚正造の指導を受け、申告書提出後同月中旬頃、同人に対し青色申告書提出の事実を報告した事実を認めることができる。右の認定は、被告の収受簿に原告主張の申告書を受理した旨の記載がないという前記認定事実と矛盾するように見える。しかし、原告は右第六期の前期にも後期にも青色申告をしていることは争いがなく、従つて特別の事情のない限り、第六期にも青色申告書を提出したであろうと推察することも、あながち無理ではないのみならず、これを提出したとする前記各証言について、その信用できないことを認めるに足りるなんらの証拠もない。これに反し、被告の当時の申告書の取扱方法が前記認定のとおりであるとすれば、それに絶対に過誤がなかつたとは断言できないところであり、特に被告は当時申告者に対して受領証等により申告書の受理を確認する方法を講じていなかつたというのであるから、単に被告の内部的事務処理の帳簿であると認めるべき前記収受簿に記載がないとの一事をもつて、申告書を提出したという前記各証言をくつがえすことはできない、と考えることが相当である。従つて、原告会社の第六期事業年度分の青色申告書は昭和二十五年十二月上旬頃前記川崎勝治によつて被告窓口に提出されたものと認めざるを得ない。

ところで原告は、右第六期事業年度においては多額の繰越欠損金を生じ、第七期事業年度の課税所得の算定上法人税法第九条第五項を適用して右繰越欠損金を損金に算入すれば、課税所得はないことになる旨主張するのであるから、被告は本件処分をなすに当つて右条項により前記第六期事業年度青色申告の結果を採用しなければならないにもかかわらず、第六期事業年度分の青色申告書の提出がないものとして、これを考慮に入れず本件各更正処分をなしたことは明かに違法である。従つて右更正処分は全部取り消されるべきものというべきであり、また、右更正処分に伴つてなされた加算税の賦課処分も、それが法人税法第四十三条第一項の過少申告加算税であると同条第二項の無申告加算税であるとに関わりなく違法であり、同じく取り消されるべきものである。

よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し本件各処分をいずれも取り消すこととし、訴訟費用は民事訴訟法第八十九条により敗訴当事者である被告に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾 入山実 大和勇美)

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